Zettelkastenは資料のメモと自分の考察を分けて始める

Luhmann-Archivの解説によると、Luhmannは読みながら箱へ直接抜き書きしたのではなく、読書メモをもとに、二段階目でカードを作っていました。文献を記録したカードの裏に、短い抜き書きが残っている例も少なくありません(Luhmann-Archivの解説)。読むことと、箱に入れるカードを書くことの間に、一度手を動かす工程があったわけです。

ただし、Luhmannが資料と考察を別のカードに分ける決まりを定めていたわけではありません。内容を書いたカードは、読書の結果であると同時に、自分の議論の発展も記録していたと解説されています。次の表は、この工程を業務のノートへ置き換えた編集部の案です。

比べる点資料メモ考察ノート
答える問い資料に何が書かれていたか自分はどう考えるか
書くこと出典、確認した箇所、原文の要点一つの考えと、その理由
AIの要約「原文と未照合」と記して置く置かない
数え方資料1件に1ノート考え1つに1ノート

zettelkasten.deの入門も、カードの本文は自分の言葉で書き、末尾に出典を記す形を示しています。出典がなければ、自分の考えとして扱います(zettelkasten.de:入門)。検索すると、走り書き・文献・永久という三分類をよく見かけます。今回確認したLuhmann-Archivの解説が挙げるカードの種類は内容のメモ、文献、索引などで、「永久ノート」にあたる呼び名はありません。zettelkasten.deの入門にも出てこないので、この記事では呼び名より、資料か考察かという区別を優先します。

AIの要約は考察ノートに混ぜない

AIに作らせた要約は、資料メモの側に見出しを分けて置きます。考察ノートへ移すのは、原文で確かめ、自分の言葉で書き直した部分だけです。混ぜてしまうと、後から読んだときに誰の言葉なのか見分けにくくなるからです。これは編集部の考えで、今回確認したLuhmann-Archivの解説とzettelkasten.deの入門にAIの話はありません。議事録や顧客の発言をAIに渡してよいかは、社内の決まりで先に確かめてください。Webページを資料メモとして保存する手順はWeb Clipperで出典を残す方法で扱っています。

Zettelkastenの考察ノートは一つの考えだけを書く

zettelkasten.deの入門は、カード1枚を一つの考えに絞ることを勧めています。厳密な法則というより、方向を示す指針という位置づけです。本文は自分の言葉で書くことを重視しており、引用を添えること自体は否定していません(zettelkasten.de:入門)。

一つの考察ノートは、次の順に作ります。ノート名の付け方と書く分量は編集部の案です。

  1. 考えを一つ選ぶ。資料メモを読み返し、次の仕事に関わる考えを一つだけ選びます。
  2. ノート名を主張の形にする。「納期」ではなく「納期は製造の確認後に書く」のように、一覧で読んでも内容が分かる名前にします。
  3. 本文を短く書く。自分はどう考えるか、その理由、まだ分からないことを数行で書きます。
  4. 出典へ戻るリンクを置く。編集画面で[[と入力し、候補から資料メモを選びます(公式:Internal links)。

主張の形の名前には注意点が二つあります。一つ目は記号です。# | ^ : %% [[ ]]を含む文字列はリンクとして機能しないことがあると公式ヘルプにあるので、ノート名に使わないでください(公式:Internal links)。

二つ目は、考えが変わったときの改名です。Luhmannのカードは番号で指し示され、一度決めた場所は変わりませんでした(Luhmann-Archivの解説)。Obsidianの内部リンクではノート名を宛先に書きます。Obsidianの中で改名すれば、リンクを自動で更新できます(公式:Internal links)。一方、zettelkasten.deの入門は、ソフトに頼らない形を保ちたいとして、題名をIDにする方法を勧めていません(zettelkasten.de:入門)。Obsidianの中だけで使うなら題名で足りると編集部は考えます。ほかのツールでも使い続けたいなら、202611030900のような日時のIDをファイル名に入れる方法も選べます。

Luhmann-Archivの解説は、別のカードの番号を書き込む参照を、箱の創造性に欠かせない仕組みとして説明しています。離れた場所のカードを指す参照もあり、相手のカードにも番号を書き戻した例がよく見られます。話題の始めに関連するカードを最大25件並べたカードもあり、ふつうは番号に加えて概念名なども書かれています(Luhmann-Archivの解説)。

一方で、Luhmannが参照のたびに理由を文で書いていたとは、この解説には書かれていません。理由を明示するよう勧めているのはzettelkasten.deの入門で、これをlink contextと呼びます。理由のないリンクは、後の自分がたどる価値を判断できないという説明です(zettelkasten.de:入門)。この記事が採用するのはこの勧めで、Luhmannの作法の説明とは別の、現代の実践者の提案です。

理由は、関係を表す短い言葉から書き始めると迷いにくくなります。次の四つは編集部の例で、Zettelkastenに決まった分類があるわけではありません。

関係の言葉使う場面添える一文の例
根拠資料へ戻る発言の原文を確かめるため
支える考えを裏づける順番を変える理由になる
条件を足す成り立つ範囲を絞る確認前の日付は書けないため
反する逆の考えを示す別の場面では価格が決め手だった

書くときは、リンクと理由の間に空行を入れないでください。

コード・記入例
条件を足す:[[納期は製造の確認後に書く]]
確認前の日付は提案書に書けないため。

空行を入れないのには理由があります。BacklinksのShow more contextは、リンクを含む段落を省略せずに表示する選択肢です(公式:Backlinks)。同じ段落に理由があれば、相手のノートから逆向きに見たときも、リンクを書いた側のノートを開かずに理由を読めるはずです。公式の説明から編集部が考えたことで、画面では試していません。見出しやブロックへのリンク、表示名の変え方はObsidianリンクの使い方で説明しています。

Zettelkastenの完成例:架空の提案で論点が変わるまで

ここで示すのは、Luhmann-Archivとzettelkasten.deの解説、Obsidianの公式ヘルプをもとに編集部が組み立てた架空の例です。A社も議事録も実在しません。ノートを実際のファイルとして置き、リンクの宛先と逆向きの対応だけをスクリプトで照合しました。Obsidianのアプリは操作していないので、表示まで確かめたものではありません。

場面は、取引先のA社への次回提案です。提案担当者の最初の問いは「値引きをどこまで認めるか」でした。まず議事録から資料メモを作ります。

コード・記入例
# 資料-A社定例の議事録
出典:10月定例の議事録

## 書かれていること
調達担当:他社より高いが、
納期の説明は分かりやすかった

## AI要約(原文と未照合)
価格と納期が主な論点だった

原文は一人の担当者の発言で、「主な論点」とまでは書かれていません。AI要約を分けておけば、この違いを原文と見比べて確かめられます。担当者は発言から「A社は価格以外も比べている」という考察ノートを書き、続けて次のノートを書きました。

コード・記入例
# 納期の根拠を価格より先に示す
A社の次回提案では、値引き額より先に
納期の根拠を説明する。
根拠はまだ一人の発言だけで、
ほかの担当者には聞いていない。

支える:[[A社は価格以外も比べている]]
価格以外を見るなら順番を変える理由になる。

条件を足す:[[納期は製造の確認後に書く]]
確認前の日付は提案書に書けないため。

リンク先の納期は製造の確認後に書くは、製造部への確認メモをもとに書いた考察です。ここまでで、問いは次のように変わりました。

段階その時の問い問いを変えたもの
読む前値引きをどこまで認めるかなし
議事録の後A社は価格以外の何を比べているかA社は価格以外も比べている
製造部の確認の後確認済みの納期をいつまでに示せるか納期は製造の確認後に書く

この移り変わりと、関連する考察へのリンクを残すのが問いノートです。

コード・記入例
# 問い-A社への次回提案の論点
今の問い:確認済みの納期をいつまでに示せるか

変えた理由:[[納期は製造の確認後に書く]]
確認前の日付を使えないと分かったため。

前の問い:A社は価格以外の何を比べているか
[[A社は価格以外も比べている]]
最初の問いを変えた考えへ戻るため。

答えの案:[[納期の根拠を価格より先に示す]]
提案書の順番を決める考えのため。

最初の問い:値引きをどこまで認めるか

例が示しているのは問いの移り方です。提案が通るかどうかは、この例からは分かりません。

PLai編集部が作成した模式図で、実際のアプリ画面ではありません。上から順に、出典と原文の要点を書き、AIの要約を未照合と記して置く「資料メモ」、自分の言葉で書き直した一つの考えと理由を書く「考察ノート」、今の問いと変わった経緯を書いて関連ノートを見直す入口にする「問いノート」を並べ、資料メモから考察ノートへ、考察ノートから問いノートへ矢印でつないでいます。
編集部作成の模式図で、アプリの画面ではありません。

問いからObsidianのバックリンクで関連ノートを見直す

Luhmannの箱では、カードを探す入口は索引でした。一つの語に載せる参照先はふつう四つまでで、残りは参照をたどれば届くと考えていたと解説されています(Luhmann-Archivの解説)。問いノートは、この入口の考え方を業務に置き換えた編集部の案です。載せるのは今の問いに直接関わるノートだけにします。

見直すときは、次の順に進めます。

  1. 問いノートを開く。右サイドバーのOutgoing linksタブのLinksに、開いているノートのリンクが並びます。リンクを押すと、そのノートが開きます(公式:Outgoing links)。
  2. 考察ノートの逆向きのリンクを読む。右サイドバーのBacklinksタブを押し、内部リンクで参照している箇所を示すLinked mentionsを見ます。タブが見えないときは、コマンドパレットでBacklinks: Show backlinksを実行します(公式:Backlinks)。
  3. 理由を今の問いと照らす。Show more contextをオンにして、添えた理由が今の問いでも成り立つかを読みます。
  4. 書き足す。成り立たない理由があれば、新しい考察を書き、問いノートの問いも更新します。

架空のノートのリンクを照合した結果では、Linked mentionsに出るはずのノートは次のとおりです。問いノートへのリンクはこの例にないので、問いノートには何も出ないはずです。

開くノートLinked mentionsに出るはずのノート
資料-A社定例の議事録A社は価格以外も比べている
資料-製造部への確認メモ納期は製造の確認後に書く
A社は価格以外も比べている納期の根拠を価格より先に示す/問いノート
納期の根拠を価格より先に示す問いノート
納期は製造の確認後に書く納期の根拠を価格より先に示す/問いノート

主張の形のノート名には短い別名を足す

Backlinksにはもう一つ、Unlinked mentionsがあります。開いているノートの名前が、リンクなしで書かれている箇所を示す欄です(公式:Backlinks)。ただ、主張の形の長い名前が、ほかのノートにそのまま書かれることは少ないでしょう。これは編集部の推測です。そこで、ノートのプロパティに短い別名(alias)を足します。公式ヘルプによると、別名のリンクなしの言及もBacklinksで探せます(公式:Aliases)。

コード・記入例
---
aliases:
  - 納期確認
---

この例の製造部への確認メモには、「通常品の日付は、納期確認の後でないと約束できない」と書いてあるものとします。文字列の照合では、この語が別名と一致しました。空白で区切らない日本語の文でUnlinked mentionsに出るかは、画面では試していません。言及を見つけても、すぐにリンクせず、関係を一文で書けるかを先に考えてください。

Zettelkastenが続かない時の見直しと限界

続かないときは、起きていることに分けて見直します。根拠を示していない行は編集部の案です。

起きていること見直すこと
資料メモだけが増える新しい資料を足す前に、今ある資料から考察を一つ書く。集めるだけでは足りないという注意はzettelkasten.deの案内にもある
理由を書けないリンクが並ぶそのリンクを外すか、「理由は未定」と書いて次の見直しで決める
一つのノートが長くなる別の問いに答えている段落を、新しいノートへ分ける
古い考えが違っていた消さずに、訂正を新しいノートへ書いてリンクする。古いノートの冒頭にも「見直し済み」と書く

最後の行は、Luhmannの箱の扱いを参考にしました。誤りや行き止まりも、後の記入で修正され、元のカードは箱に残ったと解説されています(Luhmann-Archivの解説)。業務で古い情報が誤って使われると困るので、「見直し済み」の一言は編集部が足したものです。

限界も三つ書いておきます。

  • 同じ働きの保証はありません。解説の対象は、一人の研究者がおそらく1952年から1997年初めまで書いた、約9万枚のカード箱です。発表を支える道具として働くようになったのも、カードが一定の量に達してからと説明されています(Luhmann-Archivの解説)。業務ノートで同じことが起きるとは書かれていません。
  • 効果の数値も示していません。作業時間や提案の結果の変化は、今回の確認範囲の外です。
  • 向かない記録もあります。決定事項や手順は、案件のノートにそのまま残すほうが探しやすいと編集部は考えます。考察を書く価値があるのは、まだ答えが決まっていない問いです。記録の習慣全体はObsidianで作る第二の脳を参考にしてください。

次の提案に関わる資料一つから、考察を書き始める

最初は、次の提案や判断に関わる資料を一つ選びます。練習用の保管庫(Vault)で資料メモを1件作り、考察ノートを1件書いて、理由を添えたリンクを1本張ってください。さらに問いノートを作り、今の問いを一文で書きます。結果がこの記事の説明と違うときは、手元のアプリの表示を優先してください。

PLaiのAI社員導入支援では、業務の資料や判断の記録を整理し、AIに任せる仕事へつなげています。資料の蓄積を提案や意思決定に使える形へ整えたいときは、今のノートを一つ持ち寄ってご相談ください。

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株式会社PLai 代表取締役 市岡直人
株式会社PLai 代表取締役市岡 直人いち
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次は、御社の話を聞かせてください。

参考資料・出典

製品の機能・仕様や外部の発表は、以下の資料を参照しています。PLaiの運用例・実績と、公式の説明を分けてご覧ください。

  • Der Zettelkasten Niklas Luhmanns(Niklas Luhmann-Archiv)

    カードの作成手順、番号、参照、索引、枚数と時期、誤りの扱いについての解説。

    確認日:
  • Introduction to the Zettelkasten Method

    実践者による入門。一つの考えに絞ること、自分の言葉、出典の書き方、題名をIDにする方法への見解、link context。

    確認日:
  • Zettelkasten:Getting Started

    実践者による案内。資料を集めるだけでは足りないという注意(The Collector’s Fallacy)。

    確認日:
  • Internal links

    内部リンクの作り方、改名時の更新、リンクとして機能しないことがある記号。

    確認日:
  • Backlinks

    BacklinksタブのLinked mentionsとUnlinked mentions、Show more context、表示コマンド。

    確認日:
  • Outgoing links

    Outgoing linksタブのLinks一覧と、リンクからノートを開く操作。

    確認日:
  • Aliases

    別名の設定方法と、別名のUnlinked mentionsをBacklinksで探せること。

    確認日: